紳二  悠々閑々だ。(投げ棄ててある名刺を拾ひ)そんなことはどうでもいいが、問題は、この男の用向きさ。まさか、おやぢの霊前で頭を剃らうといふわけぢやあるまい。 計一  その後の消息を聞いてるのかい? 紳二  聞いてもゐないが、想像はつくよ。もうそろそろ、あの会社なら、なんとか支部長といふところだらう。三十……六か、七か……。慰藉科の二千円は借りた叔父さんとかにどうやら返したとして、こんだの女房と、子供の三人も連れて、松坂屋の食堂をうろついてると思つたら間違ひはない。 計一  いやに穿ちすぎてるが、どつかで遇つたな。 紳二  遇はないさ。ふと浮んだ想像だ。みどりに遺産がはいつたことを嗅ぎつけたかな。 計一  八洲子だつて、むろん、会つちやゐまいな。 紳二  と思ふがね。第一、われわれの前で、この十年間、あの男の名を口に出したことがあるかい。ないだらう、恐らく……。意地もあるだらうが、忘れる努力をしてゐたに違ひない。礼子の話だが、みどりにも、父親の話をすることは絶対に禁じてゐたらしい。 計一  さつきは、しかし、その名刺を見せて、「お父さんだ」と云つた。 紳二  あれは、まづかつた。固くなりすぎたんだ。どうしていいかわからなかつたんだ。黙つて追ひ返すより手はないのさ。おれは、十年前の、あの晩のことを考へると、腹の中が煮えくり返るよ。畜生、出てつて、殴りつけてやらうか――「なにしに来やがつた」つて……。 計一  ほんとに怒つてるのか? クレジットカード現金化

   


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