かう云ひながら、手早く、玩具のゼンマイを捲き直す。 それを、いろいろな気持で見てゐるいくつもの顔。――あるものは無邪気に感心し、あるものは、わざと馬鹿々々しいと云ふ薄笑ひを浮べながら、その実なかなか心を惹かれてゐる。また或る者は、人が見てゐるから見てゐると云ふ張合のない表情。その他、不健康な文明が生むさまざまな不健康な顔が、此の小さな生命の仮感によつて、いろいろな程度に刺激され、興奮させられてゐる有様が、気味悪るく、また、やゝ滑稽に現はされる。 そして、それらの顔の中に、いつの間にか、一つの新しい顔が加はる。それは平造の愚直そのものゝ如き顔である。その顔は、次第に他の顔の前に出て来る。つまり、他のものを押し分けて、動く亀の方に近づいて来るのである。 ――どうです、一つ、旦那、お土産に亀の子は如何です。 かう、云ひかけられて、平造は、一寸、きまり悪るげに顔を引込める。 此の頃から、買手が盛に現はれる。銀貨や白銅をつまんだ手が、あつちからもこつちからも出る。中野区 歯医者
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