河中の温泉 一月十二日朝五時出立、荷持ちに荷物を持たして東南の山間の溪流に沿うて登りました。その辺は一体に雪が氷になってどうかすると辷り込みそうで余程注意しないと危ない。五里半ばかり進むとチョェ・テンという村へ着いた。その村に温泉があって現に入浴の出来るのが三ヵ所ばかりある。どういう効験があるか詳しいことは解りませんが、僂麻質斯には余程いいようです。で、川の中には幾所にも温泉が湧き出て川水と共に湯気を放って流れて居る。そこで昼飯を済まし、同じ流水に沿うて東に上ること三里半余にして川辺の柳林の間にある美しい小さな寺に着きました。  其寺をマニ・ハーカンと言う。マニとは心のごとくなるという意味で、心のごとくなるところの真言を書いた紙を沢山に集め、其紙を円く長い筒のようにしてその外部を銅板で綺麗に被いなお金銀で飾りを付け、そうしてその中心には鉄の心棒があって、くるくる右へ廻すようになって居ります。その大きなのを祀ってあるからマニ・ハーカンと言いますので、これはことにチベットで名高いのであります。すなわち チベット新派の開祖 ジェ・ゾンカーワという方がこの摩尼をこしらえられたというので非常に尊んで居るです。私はこの堂へ泊りましたが、その堂の護して居る坊さんはいかにも貪慾な人らしく、私の顔を見て言いますには、貴僧はどうも一通りの人でない。私の人相を見ることが出来るだろうから見てくれろと、こう言うのです。私は人相見をした事はないけれども、チベット人は非常に迷信が深いから少しは戒めにもなるだろうと思って、その男に向い、あなたは気の毒なもんだ、金や品物が沢山入って来ても、また人から損を掛けられたり、あるいは偶然な災難に出遇うてせっかく貯めた金を時々に失くしてしまい、いつも借金に苦しむという質だと、こう言いましたところが、案外にも其言が非常に適中したものと見えてびっくりして、いやこれは実に驚いたと言って呆気に取られ、その事をその近所での一番大家ドルジェ・ギャルポ(金剛王)という人の家に行って私の事をすっかり話したとのことで、その夜その家の奥さんと見える綺麗な方が子供を伴れてどうか人相を見てくれと言って出て来ました。情報商材 レビュー

   


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