発車の直後といふ気配。 二三の旅客に交つて、都会のものらしい夫婦連れが、改札口の方から現れる。一隅を選んでそこに手荷物を置き、汗を拭ひ、左右を顧み、やがて、女が先に、男がそれに続いて腰を下ろす。 他の旅客は、待合室を通り過ぎるだけである。 男は出来合ひらしい白の洋服、女は現代風のかなり整つた身じまひ。――手荷物は、服装の割に野暮な信玄袋と行李鞄、それに、中型のシューツケース。 亮太郎 疲れたらう。 あや子 やつぱり眠れなかつたわ。どつかに顔洗ふところないか知ら……。 亮太郎 朝飯を食へば、前の宿屋で洗へるけれど……まだ早すぎるだらう。それとも軽便を一つ待つて、六時のに乗つたつていいや。 あや子 六時のだと、何時に着くの。 亮太郎 七、八、九、まあ、九時だね。 あや子 それでもいいわね。折角買つたお弁当が無駄になるけど……。 亮太郎 お土産にちやうどいいよ。 あや子 お弁当のお土産つて、あるか知ら……。(間)あたし、さうする。 亮太郎 待てよ、ちよつと、見て来よう、もう起きてるかどうか(出て行く) あや子 (待つてゐる間、信玄袋の上に両腕を托し、それに額を当ててゐる) 亮太郎 (首を振りながら入つて来る)駄目。駄目だ。あと一時間かかるつて……。それぢや六時のに間に合はない。 あや子 その次は何時? 亮太郎 (時間表を見ながら)六時の次が、七時三十分……その次が九時三十分……。 あや子 ぢやいいわ。まだおなかはすいてないし、それに、顔なんかどうだつていいんでせう。見る人なんかゐやしないわね。 亮太郎 見る人はゐるよ。みんな見るよ。それこそ、通る奴通る奴、みんな振り返つて見るよ。君のやうな女は、開闢以来、あの村に現れた例しはないんだから……。 あや子 いやな方……。でも、お化粧なんか気をつけて見る人はないでせう。これでいいのよ。変形性膝関節症おすすめサプリご紹介サイト!
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