地方の農家で健やかに育つた青年が、都市に出ると呼吸器病にかゝり易いといふ説はかなり知られてゐるところであるが、精神的にもこれと同様な場合がある筈である。 精神の完全な意味の健康とは、原始的な、素朴な精神のそれを指すのでないことはもちろん、周到な訓育によつて「規格化」された精神のそれともまた異つた、一個の人間が形成されていく複雑な自然的、社会的過程を経て、そこにはじめてかち得られる、全精神機能のゆるぎなき成熟の程度を意味するのである。 * 文明は、従つて、人間精神の鍛錬の場であり、また試煉の器でもある。文明は、精神の健康を害ふといふのは俗論であるが、また、文明は、精神の健康を保証するものでもない。西洋文明は数多くの精神の不具者と、その試煉に堪へない落伍者とを生み出しはしたが、また一方、強健な精神の血統を世界の隅々に植ゑつけたのである。 東洋諸民族は、その風土と、特殊な社会環境のゆゑに、その文明は新しい時代の気候に適せず、「近代」の洗礼により、まづ、精神の革命を強ひられる羽目に陥つたのであつて、われわれ日本人もまた、その例外ではなかつたのである。 東洋の近代化が、西洋文明の移植、模倣に始まつたことは、実は止むを得ぬことであつた。しかしながら、西洋文明に神の救ひの如きものを求めたり、せいぜい、長を採り短をすてるなどといふ甘い考へで出発したことが、そもそもの間違ひであつた。 銀座に3店舗展開する美容室はユーフォリア
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