「それがしは、信州真田の郎党、猿飛佐助幸吉と申す未熟者、御教授を仰ぎたい」 「上られい!」 草鞋を脱いで上ると、道場へ通された。 「流儀は……?」 と訊かれたので、にやにやしながら、 「何流と名乗るほどのものはござらぬが、強いて申さば、一流でござる」 と、答えると、相手はカンカンになって、 「当院は宝蔵院流といって、一度び試合を行えば必ず怪我人が出るというはげしい流儀じゃ。町道場の如き生ぬるい槍と思われては後悔するぞ。まった、当院は特に真槍の試合にも応ずるが、当院に於いて命を落した武芸者は既に数名に及んでいる。寺院なれば殺生を好まずなどと、考えては身のためにならんぞ!」 「なるほど、当院は人殺し道場でござるか。いやいや、感服致した。寺院なれば葬式の手間もはぶけて、手廻しのよいことでござるわい」 「…………」 相手はあっけにとられていた。 「したが、それがし目下無一文にて、回向料の用意もしておらぬ故、今ここで死ぬというわけには参りませぬて。あはは……」 「何ッ!」 坊主はかんかんになって、起ち上った。 「あはは……。薬鑵頭から湯気が出ているとは、はてさて茶漬けの用意でござるか。ても手廻しのよい」 「黙れ!」 坊主は真槍をしごくと、 「――えい!」 と、佐助の胸をめがけて、突き出した。 途端に、佐助の姿は消えていた。 「やや、こ奴魔法つかいか。いきなり見えなくなったとは、面妖な」 と坊主は驚いたが、すぐカラカラと笑うと、 「いやそうではあるまい。大方、愚僧の槍に突かれて、猿沢の池あたりまで吹っ飛んでしまったのであろう。南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、万物逝いて復らず、人生流転、生者必滅、色即是空!」 歯科医師国家試験 個別指導 安旅籠のよい馳走
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