しかし、G氏は、極めて熱心に私に話しかける。特に支那の軍隊について、その歴史的特性から説き起した一種の論断には傾聴すべきものがあつた。近代戦に於けるその訓練の程度といふ問題になると、氏は、いきなり私にかう問ひかけた。 「支那兵の構築した陣地といふものを見られましたか?」 「野戦の陣地は見ました。相当大がかりなもんですね」 「大がかりだ。その上、労力を惜しげもなく使つてある」 「まつたく、私も、作業の丹念なのに驚きました。ちよつとした散兵壕でも立派な細工といふ感じですね」 「さうでせう。あれを日本軍なら、さう易々と棄てはしませんよ。支那軍は、あんなに丁寧に作つた陣地を、どうしてあゝ簡単に投げ出すかといふと、それには、わけがある。強い弱いといふ問題以外に、陣地といふものに対する考へ方、観念が違ふんです。いゝですか、どうせ一日か二日で退却するんなら、弾丸さへ防げればよささうなもんだ。なにも、あゝ馬鹿丁寧に、定規をあてたやうに作らなくつてもよささうに思はれる。ところが、支那人は、それ、土といふものに対して、日本人の想像もつかないやうな親しみをもつてゐる。土をいぢるといふことが、ちつとも苦にならないのみならず、それは一種の日常茶飯事です。ごらんなさい、日本の子供は、たとへ百姓の子でも、転んで着物へ土がついたら、起き上つてすぐにそれを払ふでせう。これや習慣でさうなつてゐる。然るに、支那の子供はどうです。転んでも決して土なんか払はうとしない。土のなかで生活してゐるやうなもんだ。泥まみれになることは、汚いことぢやないんです。土工作業でも、日本人なら足で踏みかためるところを、支那人は、平気で手を使ふ。綺麗に仕あがるわけです」 VALID SEO いまどきのSEO対策 ウィルゲート ヴォラーレ

   


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