「いや、貴下は疑い過ぎる」副艦長のゲビスは、毅然として屈しなかった。「貴下は、あの青年たちを見ないから、そんなことをいわれるのだ。彼の青年たちの目は、海外の知識を得ようとする熱心さで、血のように燃えている。それは、決して間者の瞳ではない。彼らの衣類は濡れ、彼らの手指には、無数の水泡を生じている。それは彼らが、潜かに本船に近づかんとして、どんな犠牲を払ったかを語っている。もしも、彼らが日本政府の間者であったならば、彼らはもっと容易に我々のところへ来たに違いない。その上、彼らは本船へ乗り移るときに、彼らにとって生命よりも大切な大小を捨てている。彼らは海外へ渡航するために、生命をさえ払おうとしている……」 「しかし、ゲビス君!」いつもは寡言な提督ペリーが、重々しい口を開いた。「私も、あの青年たちの希望を遂げさせたいという感情においては、君と異らない。が、しかし私は横浜において、合衆国の国家と日本の国家との間の条約を結んだ。その私は、私情をもって、日本の法律に背こうとする日本人を扶けることはできない。が、私は望む、知識に渇えている日本の青年が自由にわが国に到来する日が、間もなく来ることを。そして現在この二人の青年に対する庇護を拒むことは、かえってそういう未来の近づくのを早めるゆえんではないかと思う」葛飾区 金町 塾

   


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