夕方である。繁華な大通り。動物の玩具を売つてゐる大道商人。茣蓙を敷いて、その上に、色々な動物が並べてある。殊に、兎、蛙、亀、蛇などが眼につく。可なりの人だかり。それは、たゞ、その玩具が珍しいばかりではない。何よりも、それを商ふ男の、人を喰つた口上が暇な散歩者の足を止めるらしい。 ――如何です、本物よりよく出来てゐるでせう。それもその筈、こいつらには、人間の魂が吹き込んでありやす、へゝゝゝゝ。 男は、かう云ひながら、それらの動物を動かして見せる。 ――これは兎です。はい、こちらが亀さん……。この通り、のそのそと逼ひ出します。なにが可笑しんです。君だつて此の亀と大して違やしないよ。(笑ふ)こんどは蛙です。さあ、飛んだ。おや、人間が笑つてるぞ、玩具の人間が……。さ、これはなんです、お嬢さん(と云つて、若い二人連れの女の鼻先へ、蛇の玩具をつきつける。あれツと大業に叫んで、女たちは顔をそむける)はゝゝゝゝ。なにも、怖いことはない。さういふ風に、あなた方の頭は単純に出来てる。ね、あなた方が嬉しいと思ふ事は、ほんとにうれしい事ぢやない。悲しいと思ふことも、ほんとに悲しいことぢやない。あなたがたが、たゞ、さう思ふだけですよ。わかりましたか。わかつた人は、手を挙げて! さあ、さあ、皆さん、ゼンマイ仕掛の頭で何を考へてゐるんです。早く買はないと日が暮れる。兎はこれで二十銭、亀と蛙が十五銭、蛇は特別で五十銭……。さあさあ、買つた買つた。新潟市 歯医者
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