信一郎が、駭いて立ち竦んだのも、無理ではなかつた。玄関から門への道に添ふ植込の間から、透けて見える、キチンと整つた庭園の丁度真中に、庭石に腰かけながら、語り合つてゐる二人の男を見たのである。 二人の男を見たことに、不思議はなかつた。が、その二人の男が、両方とも、彼の心に恐ろしい激動を与へた。 彼の方へ面を向けて、腰を下してゐる学生姿の男を見た時に、彼は思はず『アツ!』と、声を立てようとした。品のよい鼻、白皙の面、それは自分の介抱を受けながら、横死した青木淳と瓜二つの顔だつた。それが、白昼の、かほど、けざやかな太陽の下の遭遇でなかつたならば、彼はそれを不慮の死を遂げた青年の亡霊と思ひ過つたかも知れなかつた。 が、彼の理性が働いた。彼は一時は、駭いたものの直ぐその青年が、いつかの葬場で見たことのある青木淳の弟であることに、気が付いた。 然し、彼が最初の駭きから、やつと恢復した時、今度は第二の駭きが彼を待つてゐた。青年と相対して語つてゐる男は、紛れもなく海軍士官の軍服を着けてゐる。海軍士官の軍服に気が付いたとき、信一郎の頭に、電光のやうに閃いたものは、村上海軍大尉といふ名前であつた。青年が、遺して行つた手記の中に出て来る村上海軍大尉と云ふ名前だつた。 青木淳が、烈しい忿恨を以て、ノートに書き付けた文句が、信一郎の心に、アリ/\と甦つて来た。 キャバクラ 求人
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