若い部隊長の声は、凜然としてゐた。 「自分は××中尉機に同乗する。終りツ」 操縦士の間で、細かい合図の方法などが打ち合はされた。 油断をしてゐると、○○機がいつ飛び出すかわからないので、絶えずその方向へ眼をくばつてゐなければならぬ。藍色のいくぶん華車な胴体が、遠くからでも見分けられるのである。 ○○部隊は、一機一機、同じ間隔をおいて順々に、離陸した。それがやがて、規則正しい編隊となつて、南西へ、南西へ。機上の人々の姿がいつまでも私の眼に残つてゐた。 さあ、こゝでどれだけ時間を過したらいゝのか? 出発が明日に延びるやうなことになるまいか? もう昼も近く、腹は遠慮なく空いて来る。 私はしかたがなく、催促顔を見せに行つた。操縦士は、飯盒の弁当を食つてゐるところである。 「どうも痛くていかん。歯だか耳だかわからないんだ。とにかく、間をおいて、キリキリキリキリツと来るんだ」 そばの機関士に話しかけてゐる。見ると、どうやら熱のありさうな顔色である。 今朝から二度も○○まで往復したといへば、相当に疲れてはゐるであらう。この人がまた天津まで私を乗せて行つてくれるのかと思ふと、済まぬやうな、危いやうな気がして、 「僕、アスピリンを持つてますが、飲んでみますか?」 「いや、熱はないですよ」 アスピリンは鎮痛剤であることを知らないのであらうか。私は無理に勧めてはみなかつたが、空中で痛みが堪へられなくなつた時、飛行機はどうなるのであらうかと、ひそかに気を揉んだ。 出発の時は知らせてくれと、機関士に云ひおいて、私は、またぶらぶらそのへんを歩き廻つた。日本歴史の旅
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