政一の船室。――机の上に、家族一同の写真が飾つてあるのがすぐ眼につく。政一は、船室にはいると、いきなり、手紙を書きはじめる。 3 平造の役所の事務室。 平造の席ばかり空いてゐる。隣席の安田は、向ひ例の同僚と笑ひながら話をしてゐる。 ――笠原君には、近頃会ふかい。先生よりも、娘さんにやどうだい。 安田は案外真面目である。 ――えゝ。 ――箱車の日覆は、やつぱり駄目かい。 ――雇主に理解がないんで、どうにもならないつて云つてました。しかし、今度考案したのが当れば大したものでせう。 ――何だ、今度のは? ――当てゝ御覧なさい。 ――鼠取りだらう。 ――あ、どうして知つてるんです。 ――それ位のこた、わからあね。二三日前に新宿で奴さんに会つたんだよ。鼠取りなんか、今時、誰が買ふもんか。それはさうと、急に役所をやめられちや、先生も、困るだらうな。 ――結局、気楽だつて云つてましたよ。 ――あれで、なかなか、負惜みが強いから……。 三郷市 歯医者
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