桃子 もちろん、それでいいのさ。あたしは今度は自発的に身を引いたんだけれども、学校の表向きの看板だけはすつかり塗りかへてかまはないんだよ。当節向きに自由でも平和でも、なんでもいいがだ、学校経営は、教育そのものを含めて、やはり一種の人心収攬に最後の鍵がある。念のために、これも云つておくがね、相馬さんとの関係は、よほどはつきりさせておかないと、いろいろ誤解を生みますよ。それから、子供のことね、貞坊のこと、これも満洲へ置いて来たことなんぞ、うつかり生徒たちの耳へはいらないやうに気をつけなさいよ。 登志子 そんなこと、どうだつていいのよ、お母さま。あたしはもう、学校つていふもんを、さういふ風にみてはゐないの。あたしでできることは、教育者らしい教育者になることぢやなく、なんでも裸でぶつかつて行くことなの。よくつてもわるくつても、一人の女の生き方を、実物で生徒たちにみせることなの。それがどんな結果を生むか、あたし、すこし楽しみなの。 桃子 お前の云ふことには誇張があるんだらうけれど、真実の力つていふもんを信じれば、それもひとつの行き方にちがひない。相馬さんがお前をどこまで買ひかぶつてなさるか、わたしにや想像もつかん。 その時、秀策が起つて二人に近づく。 SEO対策無双
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