のりの焼き方は、なかなかむずかしい手際のひとつである。手際よく上手に焼かなければ、一帖三円ののりも、一円ほどの値打ちしかないような馬鹿な結果が生じる。手際ひとつで、一円ののりを三円の値打ちに上げることも、いや、いくらでも支払うよと、人がよろこぶまでに焼き上げることもできる。それもこれも、焼く人の腕であり、その人の料理に対する教養がものを言うわけである。  のりを焼くのに両面を焼くな――と、よく言われるのは、貴重なのりの香りが失せるからである。炭火も黒い中はガスが発生し、湿度が高いから香りを尊ぶのりが台なしになる。ぜひ備長炭の真っ赤に起こったのを用いるべきだ。  電気コンロが一番いいが、これもスイッチを入れて、すぐのりをかざすのはいけない。コンロの熱盤が含んでいる湿度がなくなるまで待ってから、焼く心得があってほしい。そうすれば、存外素人にもうまく焼けるものである。  焼きのりの専門家は、昔は備長炭であったが、今では電熱器で焼いていることと思う。  話は別になるが、焼き肉なども味をやかましく言う者は、肉の両面を焼かない。よく起こった火の上で片面を焼き、肉汁が滲み出て来た時を見て、たれの中にひたし、さらに金網か、なべの上に乗せるが、今度は焼くのではなく焙るだけでいいのだ。  すべて料理のうまい秘訣は、こんなちょっとした注意にある。なるほどそうだろうと分ってみても、聞くだけではだめだ。直ちに、よし来た――とばかり実行する人であってほしい。 (昭和七年) 三鷹 歯科

   


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