縁日は植木もさる事ながらあの赤や白色とり/″\に美しいほおずき屋の店はカンテラの光や油煙とともに誠に旧日本の美の尤なる一つであるといってもまあそう過言でもあるまい。  銀座の縁日に見世物が御はっとになったのはいつの頃からか、二十幾年前からのことだとは思うが、その前までは盛にいろ/\の見世物が出たものだ。中にはあの生人形の大山スッテン童子――いうだけ野暮だが、われ/\は彼の大江山酒呑童子君をこう呼んだものだ――このスッテン童子君がフラ/\する手付で大杯をかたむける毎に顔色がかわり遂に角を生じ、駄々をこねあげくに後ろにどうとひっくりかえるとその緋の袴がそのまま赤い衣となってグロテスクな達磨と変じヒョコ/\とおどり出す。そのスッテンとひっくりかえるのが、スッテン童子たるゆえんのような心持ちが吾々子供心にしていたものだが、この見世物などに至っては誠に吾等ファンを喜ばせたものであった。後年木村荘八はこれを根岸の縁日において発見して大いに喜び、その芸に精通し、ことに鬼婆が妊婦をさいてそのはらの子を食う人形ぶりに至っては真にせまれるものあり、人形のこととてはら子をほんとうに食べてしまうわけにはゆかぬところから説明者が口ぞえして、「後の楽しみにとりおく」とその腹子をあとの楽しみにさせてしまうところの形などは誠に迫真のものであった。私もこれをまねてみるが到底木村荘八には及ばぬ、読者諸君若し昔のこの見世物を覚えていてなつかしいと思ったら本郷森川町を訪問し給え。亀山社中

   


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