かう云ふ有様ですから、追々と涼しくなつて来るといつしよに、所謂虫声喞々。あたりがごく静かですから昼間でも啼いて居ます。雨のしとしと降る日でも啼いて居ります。ですから夜分になつて一層あたりがしんかんとして来ると、それは賑かなことであります。私は朝早く起きることが好きでありました。五時には毎朝起きて居りますし、どうかすると、四時頃、まだ暗いうちから起き出して来て、例の一本の柱によりかゝつて、朝がだんだんと明けて来るのを喜んで見て居るのであります。さう云つた風ですから、夜寝るのは自然早いのです。暮れて来ると直ぐに蚊帳を吊つて床の中には入つてしまひます。殆ど今迄ランプをつけた事が無い、これは一つは、私の大敵である蚊群を恐れる事にもよるのですけれども、まづ、暗くなれば、蚊帳のなかにはいつて居るのが原則であります。そして布団の上で、ボンヤリして居たり、腹をへらしたりして居ります。ですから自然、夜は虫の鳴く声のなかに浸り込んで聞くともなしに聞いて居るときが多いのであります。ヂツとして聞いて居ますと、それは色々様々な虫が鳴きます。遠くからも、近くからも、上からも、下からも、或は風の音の如く、又波の叫びの如く――。その中に一人で横になつて居るのでありますから、まるで、野原の草のなかにでも寝てゐるやうな気持がするのであります。斯様にして、一人安らかな眠のなかに、いつとは無しに落ち込んで行くのであります。其時なのです、フト鉦叩きがないてるのを聞き出したのは――。レザー ウォレット 口は禍の門
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